ラスト

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勢い込み立ち上がる僕を長門さんが視線と声で制した。

「落ち着いて。」
「ですが…!急がないと彼の意識も消えて…。」

「彼の精神体は何かの存在により保護の形をとられている。
 その存在を確定するためにはまだ時間を要する…。」

すぐに行動することは不可能だと、彼女は言った。


「…。」

「明日朝には情報を取得することが可能…だから。」


僕は高ぶった感情を抑え、いからせていた肩を下げた。
彼女がそう言うのならば、僕に出来ることなど皆無に等しい。


「…分かりました。あなたに…お任せします。」

「任せて。」

必ず彼を取り戻す。
彼女の言外に強い意志を感じた。

その姿に少なからず僕は安堵し。

少し冷えたお茶を飲む。





また少し落ち着いた気がした。

 

 

 

#####

 

それ以上長門さんの家にいる必要もなく。
彼の身体と彼の精神体の捜索を任せ

僕と朝比奈さんは肩を並べて帰途についた。

こんな姿を彼が見たら忌ま忌ましいと眉間に皺を寄せるんだろうな。

そう思う端から痛みを感じた。

足を止め、拳をにぎりしめた。
たまらない気持ちになる。

彼の言葉が脳裏に響く。




『今の俺にはいいも悪いもない。』

『それに 関して何とも思うこともないんだ。』

「…古泉くん?」

「…。」

 

「泣いてるんですか…?」

言われて気が付いた。
僕は泣いているのか…。

 

僕の姿に見かねたのか、朝比奈さんはハンカチを差し出してくれる。

「大丈夫ですよ…きっとキョン君は帰ってきます。」



だが、僕にはそれを受け取れるほどの余裕がなかった。

「…違うんです…。



「え…?」


駄目だ。止まらない。

「…っく…。」

「古泉くん…?!」


涙がとめどなく流れ出す。
人前で涙を流す、なんて。
そうは思ったけれど、止まらなかった。


情けないほどに震える声が出る。


「朝比奈…さん…彼は…キョン君は…言わなかったんです…。」

「言わなかったって…?古泉くん…?」




『もう、俺は消えることを受け入れてる。それだけが今の俺だ。』


「消えたくないって…

ここに居たいって…言わなかった…。」

 

そうだ。

彼を行かせてしまった僕たちを責める事もなく。

 

 

彼はただ静かだった。

 

 

 

彼の心はあの時にはもうここにいなかったんだ。


                                        To be Continued…




のんびりゆったりな更新ですね、久々にあやかしキョン君続きです。
というかもうキョン君いませんが…。

次からはオリキャラが出張りはじめますが、できればお気になさらず。
私の中ではかなりの古株キャラですが…地味なんで大丈夫です!!(何が)



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誰にも何も言わないままで。